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『あしながおじさん』アリス・ジーン・ウェブスター 土屋京子 (光文社古典新訳文庫)

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『あしながおじさん』アリス・ジーン・ウェブスター 土屋京子 (光文社古典新訳文庫)

バイヤー:永山のおすすめ



古典の名作にはおおよそ縁のない人生を送ってきたため「星の王子さま」も「赤毛のアン」も、はじめて読んだのは二十歳を過ぎてからだった。
この作品も、友人から贈られることがなければおそらく読まずじまいだったろうと思う。


孤児院育ちの少女・ジュディから、彼女を支援してくれる謎の「あしながおじさん」へ綴られる手紙の形をとって話が進むので、古典にイメージするとっつきづらい堅い言いまわしなどはあまりない。
(「あしながおじさん」は基本的に返事を書かないので、返事をくれないおじさまに拗ねたジュディが超がつくほど慇懃無礼な文体の手紙をまれに寄越すぐらい)
ジュディの書く文章はのびやかで若くしなやかな感受性にあふれていて、彼女の目から見る彼女のあたらしい世界を生き生きと表している。
孤児院で書いた作文のユーモアを見込まれて"作家になる教育"のため支援を受けるに至ったため、もともと文章力はあり、それが新しい環境でさまざまな心の動きを体験することでどんどん豊かになっていくのが見もの。
手紙にはたまに挿絵がついており、そのおかしみのある風情も味なのだけれど、本人いわく「わたし、作家より画家になるべきだと思いません?」と至極まじめに言っているのには突っ込みたい。
流石のおじさまもこの時ばかりは「こいつまじか」と思ったんではなかろうか。

本作の魅力は有名なあらすじよりむしろ、ジュディが見聞きし感じ考えた彼女の世界が彼女の言葉で語られるのを、ひとりの少女の成長を見守るように慈しめるところだと思う。
あらすじは知っているという人も古典は苦手という人も、届いた手紙の封を開けるような気軽さで読んでみてほしい。