『未来』
何というタイトルを湊さんはつけたのだろう。
この物語を読まずして、ただ『未来』とだけ聞いたならば、特別に何かを感じることはない。
極々平凡なタイトルと思ったことだろう。
しかし、この世の全ての不幸を詰め込んだかのような凄まじいダークストーリーであるこの小説に、湊かなえという作家は『未来』とつけたのだ。
私はこの『未来』をかなり早い段階で2回読んだ。
1回目はストーリーの展開に急き立てられるように勢いよく読み走った。
そして2回目はそれぞれの登場人物の思いを噛みしめるように、あらゆる箇所に付箋を貼りながら、線を引きながら丁寧に読んだ。
すると、あっという間に読み切った1回目とは全く違った物語の奥深さが見えた。
そして、そこに作家の覚悟を感じて泣けてしまった。
『未来』
今まで特にその言葉以上の何かを感じたことのなかった『未来』という単語の重みを、私はこの『未来』という小説を読んで強烈に感じた。
『未来』とは、きっとゼロから始まるものではなく、過去の喜びも苦しみも悲しみも全部含んで、それでも新しく始まる1歩なのだと思う。
今、自分の身の回りの環境に苦しんでいる人たち。
そこがあなたの世界の全てではない。
私は、湊かなえさんからの強い『未来』というメッセージをそう捉えた。
本当に、すさまじい作品だ。