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『るきさん』 高野文子 (筑摩書房)

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『るきさん』 高野文子 (筑摩書房)

バイヤー:永山のおすすめ



るきさんのお仕事はお医者の保険の請求。
加算器がうまくて、一カ月分の仕事が一週間で終わってしまう。

この最初の3コマの情報だけで、率直に「うらやましい」と思った10代のころ。
たぶんそんなにお給料は高くないのだろうけど、るきさんはさしたる不便も不満もなさそうに、図書館で本を借りたり、その談話室でお昼寝したり、郵便局に記念切手を買いに行ったりして日々過ごしている。
ただ『少ないモノでていねいな暮らし』といった清貧さとはまた違って、はさみをなぜか5挺も持っていたり、洗濯物が乾かなくて割烹着を着てやり過ごしたり、お米を買いに行ったはずなのに、ぼやっとしていてステーキ肉を買ってしまったり、ちょっと雑で抜けていて、きちんとしすぎてないところがいい。

もうひとりの主要な登場人物、るきさんの友だちのえっちゃんは、るきさんとは対照的に最先端の流行に敏感なおしゃれなキャリアウーマンといった感じ。
(描かれたのが1988~92年なので、えっちゃんの口から出るさまざまな単語にはさすがに時代を感じる。)
まったくタイプの違う二人がどういった経緯で友だちになったかは分からないが、ふわーっとどこかずれていつつ鷹揚としているるきさんと、キビキビしていてミーハーなところのあるえっちゃんの距離感が、仲はいいのに近すぎない絶妙な加減で気持ちがいい。
「勇気のいることはしたくない」と言いつつ、最後はびっくりするような行動を起こすところもるきさんなら分かる気がして、またそれを受けたえっちゃんのラストシーンも、この二人ならではの『ほどよさ』がにじみ出ている。
なんともすてきであこがれる暮らし、あこがれる関係だ。