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『推しが武道館いってくれたら死ぬ 1』 平尾アウリ (徳間書店)

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『推しが武道館いってくれたら死ぬ 1』 平尾アウリ (徳間書店)

バイヤー:永山のおすすめ



「推し」というものが存在する人生というのは、
それが占める比重が大きければ大きいほど、良くも悪くも狂いやすいらしい。

この漫画の主人公「えりぴよ」さんは、岡山のローカルアイドルグループ「ChamJam」(通称ちゃむ)の不人気メンバー・舞菜の古参にして唯一(?)のオタクと、周りのオタクたちから主に悪い意味で一目置かれている存在だ。
(舞菜にファンが増えないのは、えりぴよさんが強火のオタクすぎて周りが近寄りがたいというところがあったり……)
収入はすべて舞菜のために使うため、自身は常に高校時代の赤ジャージで過ごす彼女をはじめ、別のグループで活動していた頃(当時は不人気)からリーダーの「れお」を応援し続け、社会人は休みが取れないという理由で正社員を辞めた「くまさ」さん、ちゃむのメンバー内ではしっかり者のクールビューティー、といった印象の「空音」推しで、空音の彼氏になることを夢見る、いわゆる”ガチ恋”勢の「基(もとい)」さんと、様々な「オタクと推し」との関係性、推しへの感情が爆発するさま、自身のオタクとしての在り方を自問自答したり深淵を覗いたりするさまが描かれている。

我を忘れて推しを推す姿は「こんなにも夢中になれるものがあるってなんて素晴らしいのだろう」と綺麗にまとめたいところだ。
が、それが憚られる程度には、各キャラクターがなかなかに気持ち悪い言動、行動、心情を赤裸々に披露してくれている。
(作中のオタク同士も、自身のことは棚に上げてよく引いたり引かれたりしている。)

その反面、好きなものを好きで居続け、応援し続けるために、
それ以外のものを恥も外聞もなく捨てていく思い切りの良さには、
痛々しいだけでは片付けられない煌めきのようなものを感じずにはいられない。
登場人物たちを見ていると「自分はここまでではない」という(どんぐりの背比べ的)安心感と同時に、
「自分にはここまで全身全霊で気持ちを預けられるものがないのでは?」といった、
焦燥のような嫉妬のような、形容しがたい敗北感のようなものがふつふつと湧いてきて、なんだか始末に負えない感情を持て余すことになってしまった。