
誤解を恐れずに言うと平野さんの小説は、難しい。
時に言葉が難しく、物語に出てくる様々な事柄に対しての造詣の深さと(特に音楽!)、それらがまたとても深い位置で巧みに絡み合い、まるで樹齢何千年という樹木の根が張るがごとく、ありとあらゆるところへと伸びていき、その細い先端までもが物語を形成するために重要な役割をしている。その細部まで息吹が行き届くその感じは、凡人には理解し得ないもの。そう感じてしまい、結局「難しい」という言葉で落ち着けようとしてしまうのかもしれません。
しかし、不思議と読後、物語に対する印象としては難しかったと感じることはなく、一般的に小説を読み終えた時同様に(いやそれ以上)、総体的な物語に対する感想を抱くことができます。
そして、この「マチネの終わりに」。
この物語も作中にある「静寂の美」などについて、時にページを前後したりしながら丁寧に読み進めたため一定の時間を要しました。
しかし、最後はこの大人の愛の物語の果に、深くて大きな「愛」に包まれるような、そんな気持ちで読み終えました。
これは、大人の究極の愛の物語。
「ページをめくる手が止まらない」小説ではなく、
「ページをめくりたいけどめくりたくない」
「ずっとその世界に浸りきっていたい」
そういった小説。
そんな「マチネの終わりに」を、今年最初に読む小説にいかがでしょうか?