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『ようこそ地球さん 改版』星新一(新潮社)

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『ようこそ地球さん 改版』星新一(新潮社)

バイヤー:永山のおすすめ




 
長編小説というのは、読む前に妙に構えてしまうときがある。
別に合わなければ途中でやめたっていいのだし、もっと自由にいろいろ手をつければいいはずなのだけど、「読みはじめたからには読み切らねば」といったあさっての義務感に駆られているのかもしれない。

その点、星新一の小説にはそんな気構えは一切不要だ。
何せ”ショート・ショートの神様”と呼ばれるだけあって、ほとんどの話は数ページにしか満たない。ちょっとした待ち時間でもお昼休憩でも何編かは読み終えてしまう。
しかも1001編の作品があるので、オチや枝葉の部分を忘れてしまっている話もかなり多く、割と何度読んでも新鮮な気持ちで楽しめる。

もちろん短いだけのお話ならいくらでもあるけれど、読み返すほどに星新一は別格だ。
極限まで無駄を省いた簡潔な表現なのに、情景が目の前にあらわれ感情が胸に迫ってくる。
書かれているのはほとんど私が生まれる前で、それでも古臭さを感じさせるというよりは、常に近未来っぽいなと思う。
資源を採りつくされ、処刑場となった赤い惑星に、いつ爆発するかわからない銀色の玉と放り出された罪人が主人公の『処刑』は、恐怖も絶望も希望もシンプルな文章の端々から滲みだしてきて、読んでいる側にもそれらが伝染しそうで息苦しささえおぼえた。
ある画期的装置の登場に世界全体がひとつの流れになり、それに飲まれていく『セキストラ』、死者との会話が可能な装置を作り出した男の行動と、それを目の当たりにした人びとの選びとったものを描く『殉教』など、
めまぐるしく変わる世の中を常に天から見下ろしているような視点でもって人びとは描かれる。
その星新一の世界に現実が追いついてきているような節もあり、それはあまり喜ばしいことでもなさそうだなと思いつつ、純粋に星新一のすごさを感じてしみじみともしてしまう。