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『二人の嘘』一雫ライオン(幻冬舎)

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『二人の嘘』一雫ライオン(幻冬舎)

営業本部:野尻のおすすめ

 

一雫ライオン。
強烈に印象に残る作家名なので、『スノーマン』のときに読んでみようか迷った。
しかし、ホラーだったので怖いのが苦手なため、見送った。

『二人の嘘』は、狂おしいまでの愛を描いた法廷ミステリー。
十年に一人の逸材と言われる美しい女性判事の主人公・片陸礼子と、哀しき偽証で真実を隠し通した元服役囚・蛭間隆也。あることから、礼子が裁いた過去の事件の真実が判明されるに従い、二人の運命が思わぬ形で交わり、大きく変わり始める。


さて、この一雫ライオンさん。
Webで調べてみると、売れない俳優から人気脚本家、それから小説家へ転向した異色の経歴を持つ作家さんのようだ。実は読んでいる最中、あまりにその文体の滑らかさに、
「なんか脚本家っぽいな、百田尚樹さんとか鈴木おさむさんに通ずるものを感じる」
と思ったら、本当に脚本家だった。
勝手な印象なのだが、脚本家の方が書く小説は物語の展開が映像的、そしてキャラクターの輪郭が非常にはっきりとしていて会話文がうまい、そんな印象がある。

この『二人の嘘』主人公の片陸礼子の人物像も、とても特徴的。
・東大法学部を史上最高得点の主席で卒業した女性判事
・周囲が目をみはる美貌の持ち主
といったことに付け加え、礼子の人柄を表す印象的な描写として、
「判決をくだす立場として、余計な情報は頭の片隅にもいれたくない。
情報は感情に繋がる。感情は正しい判断をもっとも狂わせる」
と、礼子がどんな人間か一瞬でわかるくだりがある。
このように登場人物のキャラクターを明確にすることは、ある意味読み手に想像する範囲を限定させ、小説をわかりやすくする、そんな効果がある気がする。だから、この『二人の嘘』も400ページ以上もあるにも関わらず、非常に読みやすいのだと思う。


登場人物の人物描写の巧みさと、物語の展開力、そしてストーリーのわかりやすさと文体の読みやすさが相まって、『二人の嘘』はとても良かった。ネタバレになってしまうのであれこれ書けませんが、帯の文言の”恋で終われば・・・”の通り、恋ではなく愛であったがゆえに、切ない結末を迎える。
「愛を知り、覚え、またひとりになる」
なんとも、切ない愛の果ての物語だった。