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『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子(新潮社)

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『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子(新潮社)

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『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子(新潮社)

話すことはどちらかと言えば苦手だ。
論理的に物事をまとめることは確実に苦手だ。
昔から読書感想文も苦手で、あらすじをまとめるのも大変下手くそだ。

そんな僕は今、月に1回地元FMラジオにマンスリーゲストとして出演し、おすすめの本を紹介している。
下手くそと公言しているのに、おすすめの本のあらすじをまとめ、感想を述べ、リスナーの皆様へ本をおすすめしているのだ。
毎月毎月上手くもない話をなんとか聴けるように導いてくれるのは、パーソナリティの方のプロの技術と優しいリスナー皆様のおかげだ。

学生の頃、周りのちょっと大人びた友人たちがラジオを聴き始め、オールナイトニッポンの話をしたりラジオで仕入れた洋楽の話をするようになってからも、僕は特段ラジオに興味を抱かなかった。
そう、つまりはこうして月に1度だけれどもラジオに出演するようになるまで、ラジオというものは自分にとって馴染みのあるものではなかった。
そんなラジオ初心者が、出演を通じてラジオの面白さを知り普段から日々ラジオを聴くようになると、書店員魂がうずく。
ラジオにまつわる小説を読みたくなるのだ。

いくつかラジオ関連のエッセイや小説を読んだ中で、一番ぐっときたのがこの「明るい夜に出かけて」だ。
まず、「一瞬の風になれ」「しゃべれどもしゃべれども」が非常に好みだったため、その佐藤多佳子さんが書いたラジオ小説と知り、面白いに違いないと自信を持って読んだ。

『明るい夜に出かけて』は、佐藤多佳子さんがヘビーリスナーだった「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」という実際にあったラジオ番組(残念ながらもちろん僕は知らなかった)が物語の重要な要素。
ざっくりと言えば、この物語はその番組リスナーたちの交流を通じて夜を彷徨う若者特有の孤独と繋がりを描いた青春小説だ。

主人公は人との接触恐怖症で対人関係にトラブルを抱えている富山くんという青年。
大学を休学して夜のコンビニでアルバイトをしながら一人暮らしを始めた彼の唯一の趣味は、ラジオの深夜放送を聴くこと。
その深夜放送こそが「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」だ。

そんな冨山くんはアルバイト中に、お客さんで風変わりな少女に出会う。
彼女が持っているリュックに、富山くんが大好きな「アルコ&ピースのオールナイトニッポン」で、優秀なネタを投稿したリスナーだけが貰えるノベルティ缶バッチが2個もついていることに気が付き、その少女(佐古田さん)が常連のハガキ職人(「虹色ギャランドゥ」)で有ることが判明。その佐古田さんと、バイト先のやさしい先輩で歌い手さんのカザワくん、富山くんの高校時代からの友人で、深夜ラジオのヘビーリスナーであるナガカワくんの4人で織りなす青春群像劇が非常に面白い。


なんともラジオ愛あふれる物語だ。
物語の中で、主人公の冨山くんが深夜ラジオを聴く際に部屋のカーテンと窓を少し開けて、外にある都市の闇を超えたさらにその先にある明るいラジオブースに思いを馳せる、というシーンがある。
これはまさに「明るい夜に出かけて」という小説のタイトルそのものだなぁと。
夜は静かで暗いけど、闇を照らす光は明るい。
その明るさや、人々の様々な思いをつなげるものがラジオそのものの存在。
そういった感覚をこの小説はすごくうまく表現している。
読み終えると、ラジオを聴きたくなる。
リスナーとパーソナリティの温かいやりとり。
穏やかな日常感。
そんな2Wayのラジオが僕はとても好きだ。
そして、ラジオを愛する物語「明るい夜に出かけて」もとても好きだ。

ラジオ好きにも、ラジオ未経験者にもおすすめです。