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『マンガでわかる「日本絵画」の見かた』 矢島新 (誠文堂新光社)

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『マンガでわかる「日本絵画」の見かた』 矢島新 (誠文堂新光社)

バイヤー:永山のおすすめ



「マンガでわかる」といった類の、わかりやすさを売りにした本については、ともすれば表層的な知識だけを得て「わかった気」になっただけで終わってしまうおそれがある。
そういった意見をどこかで目にした覚えがあって、それも一理あるなと思いつつ、
何か興味を引かれるもののことを知る「取っ掛かり」がほしいときにはありがたいんだよなあ、と考えながら手にした本。

飛鳥~昭和までの日本の絵画の移り変わり、
”お偉方・身分の高い人びと”のための絵から”町人・庶民”の時代へ、
自分が好きな絵を追求する絵師の登場、
中国や西洋の影響を受けつつそれらを日本式に発展させ、また西洋へ影響を与え……
日本絵画が経てきた一連の流れを知りつつ、各画人たちのちょっとしたエピソードに笑いがこぼれたり胸を打たれたりもする。

某お寿司屋さんのCMでお馴染み(?)東洲斎写楽についての
「歌舞伎ファンのブーイングを受け、145点の作品を残してわずか10カ月で制作を中止」
の一文に、10カ月で145点……?と別の意味で慄いたり、
どんな時代も大衆はカワイイとエロとバトルが好きなんだなぁ、と、脈々と受け継がれている日本人のDNAにしみじみしたり。

そんな中でも特に葛飾北斎が
「80歳にもなるのに、猫一匹満足に描けない」
と娘・応為の前で泣いたという話が自分でも訳が分からないほど好きで、
こういったちょっとした部分への強烈な関心から思わず北斎についていろいろと調べるまでになってしまった。
(ちなみに北斎はこの時点ですでに、遠くの富士山を覆うように大波が砕けるさまが印象的な「神奈川沖浪裏」を含む超有名作「富嶽三十六景」を描いている)

これらの本に限らず、巷にあふれる情報には質の高低があるだろうし、
初学者向けの本に載っている内容はあくまでも有識者たちが嚙み砕いてくれた膨大な知識のひとかけらだ。
けどそれを理解した上で上手に付き合えば、
まったくの素人な私たちの興味の芽を摘むことなく、思いもよらなかった入口を指し示してくれることもある。