Javascriptが無効になっているため、正常に表示できない場合があります。

『月の満ち欠け』 佐藤正午 (岩波文庫的)

login
店員のオススメ

営業本部

『月の満ち欠け』 佐藤正午 (岩波文庫的)

営業本部:野尻のおすすめ



新年あけましておめでとうございます。
2022年はたくさんの素晴らしい本に出会うことが出来ました。
2023年もどんな本に出会えるか、新年早々ワクワクしております。
今年も谷島屋スタッフおすすめ本が皆様にとって出会いの1冊となることが出来たら幸いです。
どうぞよろしくお願いいたします。


新年1回目のおすすめ本はこれ。
2017年直木賞受賞作、佐藤正午さんの『月の満ち欠け』。
今更ですが、昨年暮れに『月の満ち欠け』が映画化されたこともあり、映画を観て作品を読み返し、改めてすごい作家だと思ったのでオススメしようと思います。

この本は小説の素晴らしさもちろんのこと、老舗岩波書店が遊び心で”岩波文庫的”としてこの作品を岩波文庫に収録したところも素敵だなと思いました。
変えてはいけないものも色々とあると思いますが、この一連の『月の満ち欠け』岩波文庫的パロディーは、長年の慣習を思い切って変える強さを持つことの大切さを自分の中で見出すきっかけとなりました。
我々書店も、普遍性を大切にしつつも変わらないために変わる強さを持ちたいと思います。


長年佐藤正午作品のファンであった自分としては、ほとんど文学賞に無縁であった佐藤正午さんの直木賞受賞は本当に嬉しく思いました。
今回この「月の満ち欠け」が映画化されたことで、改めて数作品読み返したのですが、「永遠の1/2」から「ビコーズ」「Y」「ジャンプ」「身の上話」「鳩の撃退法」などなど。
本当に素晴らしい作品だらけで、改めてオンリーワンの作家だなと思いました。


〈あらすじ〉
主人公の小山内堅(おさないつよし)は東京で愛する妻と娘の“瑠璃”と幸せな生活を送っていたが、ある日突然二人を交通事故で亡くしてしまう。
そこで彼は東京を離れ故郷の八戸に戻り悲しみに暮れた日々を送っていたが、そこに突然三角哲彦(ミスミアキヒコ)と名乗る男性が現れ、実はその事故の当日二人は面識もない自分を訪ねに来ようとしていたところで事故にあったと言う。
それに付け加えて、かつて三角が愛した女性が正木瑠璃という名前で小山内の娘である瑠璃と何らかの関係があるのでは、と話しだしたことで、物語は時間軸を超え複雑に絡み合って思わぬ方向につながっていく。

端的に言うと、この物語は輪廻転生という仕掛けを使った壮大な恋愛ファンタジーだが、輪廻転生をうまく月が繰り返し満ちたり欠けたりすることになぞらえた物語。
捉え方によっては一途で非常に深い愛の物語だが、実はかなり薄気味悪いダークファンタジーとも捉えれる。


5年前に直木賞時に読んだときと、今回読み返したときではまた印象が違い、こんなにも奥深い物語だったのだと改めて素晴らしさを実感しました。
そして今は直木賞受賞後第1作をいつ読めるのかと、もう5年近く待っているのだなあと気が付きました。