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『汝、星のごとく』 凪良ゆう (講談社)

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『汝、星のごとく』 凪良ゆう (講談社)

営業本部:野尻のおすすめ



第168回の直木賞候補作、凪良ゆうさんの「汝、星のごとく」。

実は、この回の直木賞候補作品の中で一番心に刺さった作品だった。
個人的な思いとしては、受賞作品の「地図と拳」「しろがねの葉」と、この「汝、星のごとく」を同じ土俵で評価するというのはあまりに作品の性質が違いすぎて難しいな、と思った。
特に「地図と拳」の小説としての圧倒的な力には凄すぎておののいてしまったのだけれども、この「汝、星のごとく」の現代という時代との接続性や読者に訴える共感力、切実性や哀切感。そういったものは、他の何にも代えがたいものという想いを、読後に1人の読者として強く感じました。

〈あらすじ〉
男無しでは生きられない母に振り回される男子高校生のカイと、不倫相手の元へ出ていった夫のせいで次第に精神を病んでいってしまう母を持つ女子高校生のアキミが瀬戸内の小さな島で出会う。
二人はお互いの境遇もあって、共に惹かれ合い強い絆で結ばれる。そしていつか一緒に島を出て東京へ行こうと誓うのだが、様々なことからやがてすれ違ってしまいそれぞれの道を進み出す・・・。


カイとアキミ、それぞれが相手への確かで強い想いがあるにも関わらず、目の前に降りかかる家族の問題に引きずられ相手を最優先に出来なくなり、心の距離が少しずつ離れていく様が絶妙に描かれていて非常に切ない。
また、随所に凪良ゆうさんならではの心震わせるフレーズが散りばめられていて、ぐっとくる。

特に作中の一節に、
「愛と呪いと祈りは似ている」というセンテンス。
これは相手を慮り、「どうか元気でいて、幸せでいて」と言いながら、同時に「わたし以外を愛さないで、わたしを忘れないで」と、ある種身勝手な思いを吐露するシーンがあるのだが、この祈りと呪いと愛という言葉を選択して紡ぎ、同列にワンフレーズで表現するこのセンスに本当に感嘆してしまう。

年齢関係なく読者の心を揺さぶる小説を次々に生み出す凪良ゆうさんという作家さんの凄さを改めて痛感した小説でした。