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『音楽が鳴りやんだら』 高橋弘希 (文藝春秋)

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『音楽が鳴りやんだら』 高橋弘希 (文藝春秋)

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芥川賞作家・高橋弘希さんの「音楽が鳴りやんだら」。

音楽好き、本好きの自分にとってはたまらない小説だった。

主人公は音楽の天賦の才に恵まれた福田葵。彼が幼馴染と結成した通称サーズディというバンドが大手レコード会社と契約を結びデビューすることが決定。
ただ一つ条件があり、それはベーシストを入れ替えること。
幼馴染とのバンドなので葵は一度は断るが、レコード会社が紹介してきた魅力あふれる若い天才ベーシストのプレイを目の当たりにし、そこでプロデューサーから「君には音楽の才がある。代償を恐れて才能を潰すのは、音楽への裏切りではないのかね?」という言葉を掛けられ、葵はついに幼馴染を切ってメジャーデビューすることを決意する。
そこから葵は次第に音楽の呪縛に囚われだし、変貌していく・・・。


作中には実に80以上もの実在するミュージシャンが登場し、個人的に好きなバンドもストロークスから、レッチリ、ソニック・ユース、ペイブメント、ピクシーズ、ツェッペリン、ビートルズ、ストーンズ、フーなどなど、素晴らしいバンドだらけ。
そんなこともありすごく臨場感を持って読むことができる。しかも実際のバンドの曲をうまく織り交ぜながら、架空のバンド・サーズディの音を表現するので作中でサーズディの演奏シーンでも音が鳴る。
まさに音がなる音楽小説だ。

そしてこの小説の良さはそのディスクガイド的要素とは別に、音楽と小説が見事にコラボされた凄みだ。
物語が進むに連れてどんどん音楽の世界に侵されていく主人公の葵を、高橋弘希さんが鬼気迫る文章で綴っていく後半、特に350ページ過ぎたあたりから「音楽とは?」というある種境地に達する様は圧巻だ。
骨身を削って音を作る音楽家を、骨身を削るように小説家が文章にしている。
骨太のものすごいロック小説だ。