
ほんとうにあたしでいいの?ずぼらだし、傘もこんなにたくさんあるし
岡本真帆さん初の歌集。
かわいい表紙に目がいき、帯に載っている上記の歌におかしさと同時にいとおしさがこみあげ、一瞬で心奪われてしまった。
あまりに衝撃が強くて、その日は頭の中で何度もこの歌を誦じたほどだ。
日々の中でぽろぽろとこぼして、あったようななかったようなあいまいな記憶になってしまう、ほんのささやかな日常のワンシーン。あるいは、頭の中でふくらんだ、夢か現かもよくわからない情景。そういうものに触れて現れた思考や感情のかけら。
そういうものをひとつずつ丁寧に編み上げ、なのにどこかざっくばらんに差し出される一首一首。その気軽さが快い。
ささやかすぎて思い出とも呼べない記憶の断片は、忘れてしまったとしても生きてはいける。でも、ふと思い出したときに少し頰や心がゆるむそれが、ないよりはあったほうがきっと嬉しい。
そしてそういう記憶が人を生かしてくれることも確かにあるから、ここにある歌は間違いなくどれもかけがえないものなんだと思える。