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『神さまを待っている』 畑野智美 (文藝春秋)

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『神さまを待っている』 畑野智美 (文藝春秋)

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なぜ私は畑野智美さんの小説がこんなにも好きなんだろう。
今日は、勝手に自分なりの分析をしてみようと思う。


【畑野智美作品に惹かれる3つの理由】

① 圧倒的に読みやすい文体

 ・ 読みやすい文体というのは、小説家にとって猛烈な武器なのではないか。
 ・ 削ぎ落とす力、引き算する力、がすごい

② 作品との距離感

 ・ ドライで常に自己作品を客観視している印象を受ける
 ・ 特定の登場人物に肩入れしない
 ・ この「作品との距離感」がリアリティの秘訣ではないか

③ 展開力

 ・ 物語の展開がまるで北野武映画のように唐突で魅力的
 ・ 登場人部に対して容赦のない展開


と、色々と得意ではない分析をしてみた結果こんな感じのような気がする。←(とっても自信がない)



そして、今回の『神さまを待っている』

ここのところ様々なスタイルの作品にトライされていて、『罪のあとさき』や『消えない月』なども本当に素晴らしかったが、この『神さまを待っている』も畑野節が効いており、作品に対する距離感が絶妙でした。

今回は貧困女子を扱う物語。
ネットカフェ難民や、非正規問題、奨学金貧困、貧困からの風俗などなど。
冷静な筆致でデフォルメすることなく、この社会問題をしっかりと物語に落とし込んでいてる様が素晴らしい。

いわゆる若い世代の貧困問題に対しては、傍から見たら、なぜまともに働かないんだ、賢く働かないんだ、そこまで落ちる前にどうにかならなかったのか?
など、当たり前のように思うかも知れないが、一つ一つのボタンの掛け違いで、一段一段階段をゆっくりと降るように下り、気がつけばそこ(底)にいる。
そして、そこからは一人ではどうにもならない。
勇気を出して声を上げたところで、「間違った神さま」に声を掛けてしまいさらなる底へと突き落とされる。
普段まともな生活をしている外野の我々が思っているほど、簡単には変えられない環境であることを社会はもっと真剣に知る必要がある。

そして、ここからは甘い希望かも知れないが、リアルな貧困世界には甘すぎる救いの話かもしれないが、そんな中でも、誰にだって「正しい神さま」はいる。
それは家族かもしれないし、友人・知人かもしれなし、これから出会う誰かかもしれないし、行政かもしれない。
ただ、その「正しい神さま」を知る方法を、社会が広める必要があるのでは無いだろうか。
直面している問題に対しての対策と、根本を絶つための対策と、色々とやっているのだろうけれど、貧窮している若者たちが脱出するすべを知る方法を教え、この問題を社会がもっと知ることで少しでも変わるのかな。

そんなことを考えました。