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『形を読む 生物の形態をめぐって』 養老孟司 (講談社)

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外商部・管理部

『形を読む 生物の形態をめぐって』 養老孟司 (講談社)

外商1課(医書担当):高柳のおすすめ



ベストセラー作家であり、解剖学者でもある養老孟司氏にとって
「単行書として書いた最初の本」(「文庫版まえがき」より、P3)が、
20201月、学術文庫の一冊に収められました。

本書の原本が培風館から刊行されたのは1986年のことですから、
30数年経って、ようやく文庫化された、ということになります(文庫化に当たって、加筆修正が行われています)。

「はじめに」に書かれている通り、「生物の形態を、一般にヒトが
どう考え、どう取り扱うかについて」(P11)の、著者自身の考え方が
述べられている本です。

第一章「自己と対象」に始まり、第九章「形態と時間」で終わるという
構成ですが、通読することによって読者が得られるのは、解剖学や生理学、
形態学に関する考え方・知識だけでなく、人間の思考パターンを読み解く
力だ、と言えるでしょう。生物の形態を論ずるのはもちろん、人間の思考力に
よるものだからです。

第二章「形態学の方法」の4は、「方法の限界―馬鹿の壁」となっており、
2003年の大ベストセラーである『バカの壁』(新潮文庫)というタイトルは、
すでにこの時点で著者の頭の中にあったことが分かります。

また、これも「文庫版まえがき」によれば、この本の最終部分が後に、
1989年、青土社から出版された『唯脳論』(現在はちくま学芸文庫)に
なったとのこと。それだけでなく、2017年の『遺言』(新潮新書)の
主題も、本書の中に、すでに取り上げられているそうです。

以上を踏まえれば、この本は、養老氏の原点だと言っていいのでは
ないでしょうか。過去から今日に至るまで、同じ主題を考え続けて
いる著者の姿勢は見事です。
決して易しい内容ではありませんが、その分、読み応えは十分にあります。

裏表紙のカバーにある通り、“ものの見方を変えてくれる本”として
お薦めしたいと思います。