学生時代に恋に落ちた、まるで女神のような元カノ。
幸せな交際をつづけていた日々の最中、唐突に別れを告げられ、失踪してしまった元カノ。
それでも彼女を忘れられずに、まさに彼女の敬虔な信者そのものとして日々を過ごしてきた市松のもとに、再び彼女、日下部日和が現れた。
日和の口から発せられた望み。
「市松君に私の出産記録を撮って欲しい。」
「だから市松君の精子が欲しい。」
7年越しの突然の再会直後の、並の感覚では脳が追い付かないような要望。
しかしそこは、7年間も、キスすらしなかった元カノを信仰しつづけた市松、脳内は瞬時に日和との結婚に思いを馳せ、日和への想いを口にする
……も、日和からは「そういう情緒的なのはいらない。」と両断。
それでもそれでも、躊躇を見せたり日和ったりすればあっというまにいなくなってしまいそうな、
やっとまた目の前に現れた最愛のひとが手の中からすり抜けていかないよう、市松側も必死で知恵を働かせては「メリットのある関係」を提示する。
「あなたがいなくなってからの俺の人生は余生のようだった。」
「だから、俺は今、生きてる。」
そう言い切ってしまう、命を燃やすように恋をするさまは痛々しくもどこか滑稽で、気持ち悪くても切実で、
行き着く先が傍目には地獄みたいに救いのない場所でも、このふたりを最後まで見届けたくなった。