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『空飛ぶ馬』 タナカミホ 北村薫 (リイド社)

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浜松本店

『空飛ぶ馬』 タナカミホ 北村薫 (リイド社)

浜松本店 副店長:永山のおすすめ



今や人が死なない日常ミステリは人気ジャンルのひとつとして確立されているけれど、この作品はその金字塔的作品といって差し支えないだろう。
大学生の〈私〉がとあるきっかけで出会った噺家・春桜亭円紫と、日常にひそむ謎を解く、北村薫『円紫さんシリーズ』一作目『空飛ぶ馬』の漫画化作品。

腹を切らされた古田織部の悪夢、几帳面な店主の営む喫茶店の砂糖壺、夜九時に窓の外に立つ赤頭巾、座席カバーだけが消えた車、クリスマス会の後、一夜だけ姿を消した木馬。
人々の暮らしに紛る説明のつかない不可思議や仄暗い悪意が、それこそ悪い夢を見ているようなぎくりとする不穏さで描かれる。
それらが違和感となって見え隠れしたとき、円紫さんがその尻尾を軽やかに掴んでほどいていく、その手腕の見事さたるや!
また〈私〉が謎に直面したときの瑞々しさ、やわらかい部分が傷ついたその痛み、それらを経ての美しいラストシーンが印象的だ。
しんしんと降る雪が肌に落ちてきたときのように、心の奥のほうにあたたかいものがじわりと染み込んでくる。