バラク・オバマの前半生を、関係者へのインタビューを重ねまとめたもの。
興味深かったのは、カレッジを卒業した青年オバマは
まず「コミュニティ・オーガナイザー」という聞きなれない職に就き、
そこでの経験がのちに政治の世界で具体的に役立てられたという点だった。
「コミュニティ・オーガナイザー」とは、地域社会の問題点を改善するために
住民の集会や活動を支援し、運動を盛り上げていく、
いわば「住民運動プロデューサー」とでも言うべき仕事だ。
オバマはこの経験を通して、住民を組織し、動かしていく具体的な手法を体得していった。
この手法が、のちに選挙運動に持ち込まれたのだ。
著者は、これが「ひそかな革命」(238頁)だったという。
伝統的にコミュニティ・オーガナイズは政治の世界と一線を画してきた。
非営利団体として政治活動ができないというという現実的な理由もあったが、
政治家や行政は「対峙すべき相手」であり、
直接コミットすべきでないという「矜持」もあった。
その禁を破り選挙にこの手法を導入したのが、オバマ陣営だった。
効果は絶大だった。コミュニティ・オーガナイズというこの「門外不出の飛び道具」は、
のちに保守派にも利用されていくことになる。著者は次のように指摘する。
「政治への接近を拒んできたコミュニティ・オーガナイザーが、
そのノウハウを選挙目的に応用するようになることが、
はたしてアメリカの民主主義に過度的に必要な『チェンジ』なのかどうか。
誰にもまだ簡単に答えは出せない」(243頁)
動員の技法はあらゆるテクニックを貪欲に取り込み、洗練を重ね、日々進化していく。
そのことにあらためて感嘆するとともに、少し恐ろしくも感じた。
複雑な読後感の残る一冊だった。