クジマは冬を越すためにロシアからはるばる日本へ渡ってきた……鳥?
自販機の下に潜り込んで小銭探しをしていたところを下校中の鴻田新に目撃され、日本食を食べたいという話から鴻田家に招かれてそのまま居候の身に。
身体も手足?も妙にひょろ長いペンギンっぽい外見で、箸もノコギリもその他の道具も器用に使いこなし、日常会話レベルの日本語は難なく話す上に激昂すると急にロシア語で捲し立ててくる。
列記すればするほど「何なんだろうこの生き物……」と遠い目になるが、絶妙な気ままさで日本の暮らしを楽しむクジマを見ていると「クジマが何かは分からないけど、まあいっか」みたいな方向へ不思議と気持ちがシフトしていく。謎生物に出会い頭は驚きつつも、割とすんなり受け入れ態勢を整えるという胆力を見せた新を始めとする鴻田家の面々にも、きっと同じような思いが芽生えているんじゃないだろうか。2巻でのおばあちゃんの「最初は気持ち悪ッと思ったけど、だんだん可愛く見えてきたわー」という台詞が、辛辣だけど端的で的確だなと思った。
また、クジマが家族の中に入ったことで、受験に失敗した鴻田家の長男・英とほかの家族とのあいだにあった微妙な気遣いが意図せず崩れて、風通しがよくなっている。常に張り詰めている英の「空気」をクジマが「読まず」に半ば無理やり弛ませ、家族の外から物事を見たクジマの振る舞いを受けることで、新と英との関係も徐々に変化していく。その空気のほころんだ瞬間、タイトルの「ほろろ」という言葉が脳裏にふっとよぎるのが味わい深い。