
第三回京都文学賞大賞作。
店頭に並べようと表紙を見た瞬間、「これは現代にぴったりな小説なはずだ」と直観したことを
今も覚えている。
物語はどうしてか「夜の京都」に落ちてしまい記憶を失った小日向と、
そこで出会った土蜘蛛の怪獣ゴンスに助けてもらいながら、元の世界に戻ろうとする。
方や現実で生きる小日向は自身のコンプレックスや上手くいかない恋に苦しみ続けている。
小日向が現実で味わう苦しみ、そして自分自身を嫌うリアルな思いが綴られていく描写は
「裏京都」という非現実的な空間で体験する緩やかで温かみのあるひと時をより際立たせていく。
ファンタジーはよく煌びやかな世界観にスポットライトを当てられがちだが、
「現実で得られるはずの、または得ることのできない喜びや感動を体験する」という役割を
この物語では遺憾なく発揮している。
そして、個人的にこの物語の主題であろう「自分に愛される」というワード。
これはなかなか。普段通り生きていたら出会わなかったであろう言葉に、この物語に感謝した。
おそらく、様々な言い換えをしたら聞いたことがあるだろうと考える。
例えば「自分を大切にする」とか、「自分のことを好きになる」とか。
しかし小日向の人生を読んでいくと、その思いを持ち続けながら生きていくのはかなりの困難だと痛感する。
ましてや「自分に愛される」なんて、想像すらできないだろうと思った。
そんな中、小日向はある姿を想像した。それは羽が生えた姿、表紙の子だ。
どうして彼女はそんな姿を望んだのだろうか。
ぜひ手に取って読んでいただき、彼女の想いとその姿を見届けていただきたい。