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『世界への信頼と希望、そして愛』  林大地  (みすず書房)

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『世界への信頼と希望、そして愛』  林大地  (みすず書房)

ららぽーと磐田店・店長:田中のおすすめ




「世界を愛することはなぜこれほど難しいのか?」
という引用から始まる、独自の熱を帯びたアーレント論。
 
主著『活動的生』(『人間の条件』の独訳版)を
中心に読み解き、それが、
資本主義と全体主義によって損なわれた
世界への信頼と希望を再び呼び覚まそうとする
ものであることを示す。
著者26歳、本書は修士論文というから驚く。
まず目を引くのが、じつに全体の三分の一ほど
にもなる膨大な注である。
 
著者が大切にしているのであろう文学者・詩人が
多く言及され、野呂邦暢や須賀敦子など、
意表をつかれるものも多い。いずれも、
著者のどうしても言及したいという思いから
綴られたものであろう。
 
本書に限らず、膨大な注のある本はもう
それだけで好ましい。本論に盛り込めなかった、
けれど削るにはしのびない、論点やアイデアが
散りばめられていることが多く、
読んでいてとても楽しい。
 



一例を挙げる。第一部注42、289頁。

 
ある概念(ここでは「出生性」)が、
なぜ事実だと言い切れるのか?
これは論証できているのか?
という批判に対して、著者は、
アーレントはそうした批判を承知のうえで、
あえてここで断言しているのではないか。
そうすることで、この概念に希望を
託しているのではないか。この断言は、
言わば宣言であり、そう宣言することで
何を救おうとしているのか。こうした視点から
見えてくるものがあるのではないか…と応える。
読みの可能性を広げる、豊かな受け止めと思う。
 
本書は人間の誕生を希望そのものだとする。
人文学の危機が唱えられて久しいなか、
本書のような若い著者の手になる
熱を帯びた書物の誕生こそ、
希望そのものだ、といえば大げさだろうか。
今後の活躍が大いに期待される。