
「温故知新」の一冊をご紹介いたします。
『私は赤ちゃん』は、1960年、昭和35年発行の岩波新書です。
団地に暮らすサラリーマンのパパ、専業主婦のママの間に、初めての赤ちゃんが生まれます。
本書は、赤ちゃんを楽しい気持ちで健やかに育てるために家庭・社会はどうあってほしいかということを、
ふたりの間に生まれた赤ちゃんの目を通して考えていく、という構成になっています。
というわけで、赤ちゃんが語っていくのですが、これが面白い!
「私はおととい生まれたばかりである。」
漱石先生の猫を思い出します。
この子はこれ以上学ぶ必要があるのかと突っ込みたくなるほどの、
なかなかの皮肉が随所にちりばめられていて笑いを誘います。
文章も読んでいて楽しいです。
古風、と言っていいのか迷いますが、令和の文章にはない味わいが楽しめます。
1960年といえば65年前。言葉の変遷を感じます。
そんな赤ちゃんはいろいろな場面に出くわします。
ヘリコプターから撒かれる広告ビラ。
汽車で乗り合わせた酔っぱらった会社の団体旅行客。タバコの煙が立ち込めた映画館。等々…。
令和の現在とはずいぶん違うこともあれば、今も変わらないと思う場面もあります。
ある程度の時間子どもを見てくれる人がいなければ仕事ができないと嘆くお母さんたち。
くたくたになって仕事から帰ってきて、十分に赤ちゃんをかまってあげられないお父さんたち。
「私はママだけの子ではない。パパの子でもあるのだ。
だから私はパパにも抱っこしてもらったりあそんだりしてほしいのだ」
という一文にはハッとしました。
一昔前に比べれば家事・育児に参加する男性もずいぶん増えたように思われますが、
まだまだ個人差、環境の差があるのではないでしょうか。
すっかり長くなってしまい申し訳ありません。
『私は赤ちゃん』。昭和にタイムスリップした気分を味わうことができるこの一冊。
娯楽小説として楽しむもよし。当時を知るための資料として読むもよし。
赤ちゃんを巡るあれこれを勉強するために読むもよし(医学的な情報は古いので要注意ですが)。
総合してお得な一冊です。ぜひ一読いただければと思います。