「営繕」とは、建物を新築したり、修理したりすることであるという。
この小説の舞台は古い城下町。
怪談の舞台設定としては完璧だ。
私は勝手に金沢をイメージしながら読んでいた(もしかしたら著者のイメージ
は違うのかもしれないけれど)。
旧い町並みに、典型的な日本の幽霊話は確かに怖いと思う。
幽霊というより、妖怪と呼んだ方がよいような存在まで登場します。
それらを強制的に成仏させるのではなく、その存在をハッキリと認めた上で、
営繕によって良い方向に持っていくのが、本書の営繕屋の仕事です。
強制的ではない、そういった解決策が、古来から日本人が持っているやり方
のような気がして、私自身は読んでいて暖かい気持ちにもなりました。
“怪異”とタイトルには付いているけれど、ただ単に怖がらせる話ではなく、どこか
哀愁を感じるような、そんな怪異譚です。
夏の夜にこんな怪談話もいいのではないでしょうか?
ただし、本当に怖い怪談の方が良いという方は、同じ著者・小野不由美さんの『残穢』
を読んでみてください。
こちらは夜に一人で読むことはオススメ出来ませんが…。