『空洞電車』朝倉宏景
朝倉さんは『白球アフロ』で小説現代長編新人奨励賞を受賞、『風が吹いたり、花が散ったり』で島清恋愛文学賞を受賞など受賞歴のある若手の作家さんのようだが、僕は初読みの作家さんだった。
完全にジャケ買いである。
社内の臨店業務で訪れた店舗で新刊棚に面陳されていたこの『空洞電車』の装丁に惹かれ、また音楽小説ということで買わない・読まない理由は無い、と手にとった。
表紙には、「天才を失った5人のバンドメンバー。迷い、もがきながら、その一歩を踏み出せ!」と。
そういうことではないと思うが、すぐにフジファブリックを思い描いた。
しかし表紙に出ているバンドメンバーには女性が二人。
ん?サカナクションか?
いや、バンドが順調に成功の階段を上る過程でバンドの中心人物を失う、ジョイ・ディビジョンからニュー・オーダーがモチーフだ。
などと色々なことをごちゃごちゃと考えながら、読み始めた。
物語は、天才ボーカリストのミツトをマンションからの転落死で失った、ロックバンド・サイナスの残されたメンバーを巡る短編連作小説。
作詞作曲をすべて担当していた若き天才と称されたバンドの中心であるミツトと、メンバーそれぞれの距離感が絶妙に描かれており、天才と居ることに苦悩する姿やその才能に惚れ込み没頭する姿など、実にリアル。
このバンドという運命共同体のような活動の中で、それぞれが自分の立ち位置をしっかりと理解し、音楽でつながる。表に現れた音とは裏腹に、様々な葛藤や人間らしい弱さなど、現実に活躍しているバンドも当然ながらみんな持っているのだろうなぁと思った。
我々会社員とは違う、またスポーツ何かとも違う、芸術の中の音楽。そしてその中でもやはりバンドというのはかなり特殊な連帯制がある存在なのだろうな、と思った。
うん、この連帯感が故の喪失感がすごく良く表現されていて、なんか僕はとても好きだった。