この古典的作品に、改めて注目が集まっている。
コペル君と呼ばれる少年と、
その叔父さんとの対話が描かれる物語だが、
叔父さんが語る言葉のひとつひとつに、
はっとさせられる。例えば次のような言葉。
「君のお母さんは、君のために何かしても、
その報酬を欲しがりはしないね。
君のためにつくしているということが、
そのままお母さんの喜びだ。
君にしても、仲のいい友達に何かしてあげられれば、
それだけで、もう十分うれしいじゃないか。
人間が人間同志、お互いに、好意をつくし、
それを喜びとしているほど美しいことは、
ほかにありはしない。そして、
それが本当に人間らしい人間関係だと、
――コペル君、君はそう思わないかしら」(97頁)
本書のなかで最も印象に残る言葉のひとつ。
何のてらいも留保もなく、
人間の美しさについて真っすぐに語る
叔父さんの言葉は、深く私たちの胸を打つ。
こんな場面もある。
コペル君は、不誠実な振る舞いから
友人を怒らせてしまう。
謝ることをためらうコペル君に、
叔父さんはこう語る。
「また過ちを重ねちゃあいけない。
コペル君、勇気を出して、ほかのことは考えないで、
いま君のすべきことをするんだ。
過去のことは、もう何としても動かすことはできない。
それよりか、現在のことを考えるんだ。
いま、君としてしなければならないことを、
男らしくやってゆくんだ」(235頁)
余計なことを考えずに、
いま自分の為すべきことをする。
叔父さんの言葉は、コペル君を励ますと同時に、
私たちをも強く励ます。
何度でも読み返したい一冊だ。