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『爆弾』呉勝浩(講談社)

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『爆弾』呉勝浩(講談社)

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『爆弾』呉勝浩(講談社)

年2回。
直木賞のノミネート作品が決定すると、その時点で未読の本はすぐに手に入れ、そこから数日で一気に読む。
そして自分なりの予想を立て、身勝手に作品についてあれこれと評価をするのがひそかな楽しみ。

今回の167回直木賞候補作を全て読み終えた私の予想は下記の通り。

① 「爆弾」の単独受賞
② 「爆弾」と「夜に星を放つ」のダブル受賞
③ 「爆弾」と「スタッフロール」のダブル受賞

結果は見事に外れてしまいました。

受賞された窪美澄さんはデビューからずっと好きな作家さんだったのでとても嬉しかったのですが、個人的な意見を言うと、最初のノミネート作品「じっと手を見る」が一番好きな作品だったので、これで受賞してほしかった!
と、まぁ本当に勝手な意見。すみません。


そして、呉勝浩さん。
この「爆弾」を読んだときの興奮は忘れられない。
もう”獲った、直木賞獲ったわ!”
と、ノミネート前から周囲にも豪語していたので、受賞を逃しとても残念。

さて、この「爆弾」。物語はというと・・・。

些細な事件で逮捕されたスズキタゴサクと名乗る男が、取り調べ中に「十時に秋葉原で爆発がある」と予言をする。直後秋葉原の廃ビルが爆発。
その後、スズキは自分の霊感ではここから3度爆発があると言い、それに警察が躍起となり全都民が翻弄されていく。
という物語。


みどころは、取調室という狭い空間内で東京の命運を掛けた捜査人と犯人との問答。
そして広い東京の屋外で爆弾を探すその対比。この対比が非常に面白い。
同時に、このスズキタゴサクというモンスター級のキャラクターが強烈なインパクトを残す。

そして、そのスズキタがのらりくらりと取り調べの中で話す対話の端々に、次の爆弾についての地名や想定される被害者などの情報を大量のむだ話の中に紛れ込ませるのだが、それを見逃さないように神経を尖らせる刑事たちもキャラが立っていて面白い。
特に警視庁捜査一課特殊班捜査係の類家という刑事が際立つ。
類家とタゴサク、警察官と犯罪者とのやり取りが本当に面白い作品。言葉の持つ力が圧巻です。

しかも、完全なるエンタメに仕上がっている小説なのに実は非常に奥深い。
スズキタゴサクが取り調べで語るこの世の中の理屈は、一歩間違えると一般人は共感してしまいそうになる部分がある。
そこでしっかりと自身に立ち返って犯罪者の領域に共感しないか、しっかりと踏みとどまれるか、そんなことを試されている気がする。
ネットが普及したことでどんな事件の情報もいち早くある程度リアルに手にすることができるようになった昨今、呉さんもどこかのインタビューでおっしゃっていたが、当事者にとって悲劇でしか無い事件に対して、ある一定の人たちは安全な場所にいる身で高揚してしまうのは誰にでもある情動なので、それを抑制できるか否かが重要と。
それを痛烈に問われた物語だと感じた。

もう3度目ののノミネートで、ここへ来て呉さん最高傑作と思える「爆弾」で受賞を逃したのは本当に残念だが、きっと直木賞をとってくれるでしょう。
次回作にも期待をしております。
そして、応援しています。