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『クララとお日さま』カズオ・イシグロ(早川書房)

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『クララとお日さま』カズオ・イシグロ(早川書房)

営業本部:野尻のおすすめ

 


『クララとお日さま』

カズオ・イシグロさんのノーベル文学賞受賞後第1作ということもあり、大いに期待した。
月並みだが、期待を裏切らない、いや期待以上の作品だった。

お日さまに対し信仰に近い気持ちを抱いているAIの人工親友(AF)クララと病弱なジョジ-の友情が物語の土台となっているが、そこはさすがカズオ・イシグロさん、本筋のプロットの中にも様々な問題を織り込んで我々に色々な感情を抱かせてくれる。
AIである人工親友クララの視点を通して描かれる世界で、カズオ・イシグロさんは我々人間の「人間らしさ」とは何なのか、ということを描こうとしたのかなと感じた。そういえば、「わたしを離さないで」も同じようなことを考えたなぁ。

きっとこれから訪れる(いや、もう訪れているのかも知れない)AIが我々人間の世界にもっとより深く関わっていくであろう世界の中で、今、あえて人間らしさを描くことによって、より一層人間の強さと弱さを際立たせた物語なのではないだろうか。
う~ん、と腕を組んで考えさせられる。
それと相変わらず土屋政雄さんの訳がいい。本当に素晴らしい翻訳だ。
土屋さんの翻訳の自然さが文章全体のタッチをとても柔らかくするため物語全般で穏やかな印象を受ける作品なのだが、読み込んでいくと、格差社会や最先端の技術至上主義とでも言うような現代社会への強烈なアンチテーゼが投げかけられている。
なんとも健気なクララに心を鷲掴みにされつつも、やはり読後は一抹の寂しさを覚えた。



装丁はこの物語を絵で表現する、という視点で見るとカンペキ。
装丁画はイラストレーターの福田利之さん。
888ブックスから出ている、キリンジの掘込さんとの共著「あの人が歌うのをきいたことがない」が非常に好きなので、カズオ・イシグロさんの最新刊で福田さんのイラストが見れて非常に嬉しかった。